ぼくが故郷 青森県十和田市の開拓史の凄みを知ったのは、実は上京してから出会った中上健次という小説家の作品からだった。
そこから、ジャズ、ブルース、マルケスとの出会いにつながってゆく。
中上健次の作品「 枯木灘」でであったワンフレーズに衝撃を受けた。
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めくれあがった土、地中に埋もれたために濡れたように黒い石、葉を風に震わせる草、その山に何年、何百年生えているのか判別つかないほど空にのびて枝を張った杉の大木、それらすべてが秋幸だった。
秋幸は土方をしながら、その風景に染めあげられるのが好きだった。
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ぼくの父親は、小さな土建会社の経理と営業に勤めていた。家には土方がいつも遊びに来て、父親と酔っ払っていた。十和田市は土方の町だと、幼いぼくは、ちょっとばかり、自分の家や、生まれた町を自己嫌悪していた。それをひっくり返したのが、和歌山県出身の中上健次という作家だったのだ。
十和田は、輝かしい土方が作った町なのだ。
にしても、あの頃の父親も実家に出入りしていた土方の人たちも、とんでもなく迷惑で、あまりにも愛しい。
とんでもないことが、新渡戸記念館のある太素塚裏の片隅で繰り広げられていた。
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