2002年10月から月一回の定期ライブ企画「唄の闇市」が荻窪のライブバーではじまった。
それから、主宰のミュージシャンの彼とは、毎月のリハーサルの際にいろいろ話した。
「唄の闇市」という企画は、両親との死別というタイミングもあり、自分のその後の仕事の行方にも通じるものを感じていた。
だからこそ、「唄の闇市」には、どこか自分の表現の道を見つけ出すヒントがあるようで、主宰の彼が来る月一回のリハーサルの際は、自分の故郷に関すること、そして「闇」について、語り合った。
自分の故郷十和田市を思い起こすたびに思い出す夜空の星、とくに冬のオリオン座。夜の空、闇の中での光とは、ぼく自身が考える十和田市という町の成り立ちの物語に関わってくる。
こどもの頃から周りの大人から教えてもらった、故郷十和田市の開拓の歴史と夜空の星が、ぼく自身には重なって見えた。
夜に星を見続けると、数分に一度は流れ星が見えてくる。
じっと見続けていると、必ず、星が流れる。
文化や映画や物語に目覚め出した少年時代のぼくは、太素塚裏の自宅の自分の部屋から流れ星を見つけるようになった。
故郷十和田市は、だだっ広い荒れ果てた平面な原野に、一本の川を人の力で引くことによって出来上がった人口の街だ。
一人の開拓者がやってきて、そこに水を引くことの決意をし、人から人へと口伝えでお金を力と知恵を集めて、作り上げた人口都市である。
何もない、ただの野っ原が目の前にあり、そこを人が栄える町にしよう、という開拓の物語を聞きながら、小学時代のぼくは何かしら空想科学的なイメージを思っていた。
おそらくは、集まった人たちの大半は、労働者であり、夢に架ける以前に、困っていた人たちのはずだ。
北の、もっと北の、あの先の、何にもないあそこに行って働けば、飯が食える、家族を養える、と遠くから、人が集まってくる。
はじめて来た人たちは、一番最初にどんなところに住んで、どんなものを食べていたのだろう。などと思ったりもした。
自分の住む太素塚裏から歩いて数分の当時栄えた繁華街東三番街のあたりのギンギラのネオンやキンピカのお姉さんや、怖いお兄さんがいる前は、市内の町全部ひっくるめてまっさらの平地だったに違いない。
故郷十和田市が三本木原として開拓され稲生川という川が引かれたのは、当時よりも百年ちょっと前だった。
百年前、この場所に来て働いた人たちは、朝に日が昇れば働くけれど、真っ暗な夜は何を見ていたのだろう。
きっとまっさらな夜空の星を見ていたに違いない。
町が出来上がる以前には、星以外に視界をさえぎるものは、三本に枝分かれした一本の巨木しかなかったはずだから。
冬空のオリオン座と対話しながら育ってきた僕は、闇の中から光を見出した開拓人の歴史をロマンとして、何かしらの形で伝えたかった。
名もなき人たちが流星のように集まり、闇の土地に希望の光を灯し、新しい町を作り出してゆく。
光り輝く流れ者の町、三本木、十和田市。
ぼくは「唄の闇市」の主宰のミュージシャン、今村敦くんにそんな話をした。
そして一年か経つ頃、彼に提案してみた。
「今村くん、ぼくの故郷十和田の星の物語を、シンプルな歌にしてみてくれないか」
闇にうごめく無名な人たちが、光り輝く星に転身する、それは、ぼくたちが同じ目線で表現の可能性を見出したロックであり、ブルースであり、ジャズであり、フォーク。それを、ロマンを放つ夜空のバラッドにしてみる。
ちょうどパンクロックから、バラッドシンガーへ転身を試みていた彼は、引き受けてくれた。
そして、一ヵ月後の2013年12月の第3土曜日、彼は、新しい曲を作ってきた。
それは、実に実にシンプルなフレーズとコード進行によるものだった。
リハーサルで、彼が、歌いはじめた。
★
流星群
作詞・作曲 今村 敦
12月 乾いた夜空
静かに目を開け そっと見上げる
霞んだ目にも映る星
涙も乾いて 夢の後物語る
一瞬のうちに消えてゆくけど
願いが叶うことはなくても
ぼくには見えた 確かに見えた
この冬の夜の空に またたく流星群
12月 冷えた夜風
震える肩と 震える心と
取り戻せぬ過去に振り回されて
想いが届くことはなかった
だけど僕には見えた この目に見えた
この冬の夜の空に 輝く流星群
一瞬のうちに消えてゆくけど
想いが届くことはなくても
僕には見えた 確かに見えた
この冬の夜の空に またたく流星群
僕には見えた 確かに見えた
この冬の夜の空に またたく流星群
きらめく流星群
彩る流星群
名もなき流星群
★
その日、そのリハーサルで、彼の曲を聴いて、ぼくは自分の故郷を見る角度を決めたのだと思う。
光り輝く英雄である以前に、闇を超えて移動する無名の星を探求すること。
その後、今村敦は名曲を書き続け、バラッドシンガーとして心の病に悩む人たちを対象にした場面でのライブで活躍するようになる。
そして、今現在も、このぼくに無名の光を照らし出せと刺激し続ける。
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